黒田さんは新たな挑戦をするために海を渡った。

メジャーリーグのキャンプインは日本より半月ほど遅い。黒田さんはアメリカに向かう前に広島市民球場で自主トレを行っていた。カープ球団から、オフシーズンのトレーニングに使用しても構わないという申し出があったからだ。

「戦いに行くようなものなので、楽しみというのはあまりない。」

近づけない空気があり

「向こうの野球をやるのだから、向こうのやり方で準備しないといけない」

滑るアメリカのボールや硬いマウンド、言葉の壁など、すべての環境が違う中で、黒田さんはメジャー一年目のシーズンを迎えようとしていた。

筆者は黒田氏の邪魔をしないようにと気を使い、メールも必要最低限にした。シーズン後の帰国時にともにする食事の席は、それはもう貴重な話ばかりだった。メジャーリーガーの体の大きさに驚いた話、地区優勝とはいえついに優勝を経験した喜び、シャンパンファイトの歓喜など。

筆者はオフに黒田氏にインタビュー取材をする担当を任される事になる。インタビューを行ったのは2010年1月。ドジャースでメジャー3年めを迎えるシーズンだった。それまでの2年間は二桁勝利に届いていない。ドジャースとの3年契約の最終年にあたるこの年の決意を、黒田さんは「集大成」と言う言葉で言い表した。

「今シーズンで、もしかすると野球ができなくなるかもしれない」

黒田氏は活躍しドジャースと再契約するのだが、一部でカープ復帰と言う報道も出ていた。

「手を挙げてくれるなら、当然帰ってくるところはひとつしかない」